- 単元
- 世界の小学生について知り、自分の学校生活を見つめる
- 単元目標
- 国際的な視野を広げ、他の文化との繋がりを大切にする心情を育てる。
お悩み
一人一人の意見がかなり細かく分かれる場面では、板書で集約していくのにはかなりの時間がかかり、その他の問いに対して十分な時間がとれなくなってしまうことがありました。
児童からも、「道徳ってたくさんの意見を言えるし、聴けるから好きなのだけれど、その時間にみんなの考えがたくさんありすぎて、よく分からないままになることもたまにあるから、みんなの考えがすっきりと分かったらいいな。」という言葉が出たので、児童の考えが広がりすぎて板書ではまとめきれないときにそれを補助してくれるものがほしいと感じていました。
また、生成AIを用いることで児童の意見を集約する時間を短縮し、考えを深める時間を多くとって児童の意見がさらに活発化することも期待しました。
道徳的価値を高めるための道徳の授業ではありますが、学級の実態として、自分の考えを伝えることが苦手な児童もいます。しかし、トラビに自分の考えを反映させることで、自分にも伝えることができたという実感をもてる児童もいるのではないかと考えました。
学習の流れ
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- 導入の発問
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ほかの国の小学生は、どんな学校生活を送っているのか想像してみましょう。
どんなことが日本と違うと思いますか。
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- 中心発問
- 世界の小学生の学校生活を知って、どんなことを思いましたか。
- 回答した意見を生成AIで要約し、全体で共有する。
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- 要約結果を見て、以下について内容を分けて児童とともに板書をまとめる。
日本の小学校と似ているところ・違うところ・いいな!と思うところ・不思議に思うところ - 要約結果に、さらに言葉を追加したり削ったりして、自分たちの考えを整理する。
- 要約結果を見て、以下について内容を分けて児童とともに板書をまとめる。
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日本の学校の良いところを紹介する。
学習の様子
中心発問である「世界の小学生の学校生活を知って、どんなことを思いましたか。」という問いに対してトラビを使って児童の考えを集約し、それぞれの国に対する考えを整理するための手段となればよいと考えました。生成AIの要約結果から、日本の小学校と似ているところ・違うところ・いいな!と思うところ・不思議に思うところに内容を分けて、言葉を追加したり削ったりしながら、児童とともに板書をまとめていきました。
実際に児童から出た意見には、このような内容がありました。
「ドイツの小学生は4年生までしかなく、そのあとは将来の夢によって行く学校が変わるそうです。『将来何になりたいかを今決めなさい』なんて言われても、僕は決められないです。ドイツの小学生ってすごいです。」
「ブラジルの小学生は、休み時間も給食もあって僕たちの小学校と似ています。でも、子どもの人数がすごく多いから、午前の部と午後の部で入れ替わるそうです。全員いっしょに通えたらいいのに…なんかいい方法はないのかな、と思いました。」要約を行う際には、箇条書きも文章も両方の要約結果を確認しました。教師としては200文字程度ですっきり要約された文章の方が、児童にとって理解しやすいのではないかと考えていましたが、児童から「箇条書きと文章での要約の違いを見て考えたいです。」という意見があり、どちらの結果も活用することになりました。児童の会話を聞くと、「文章よりも、より細かく分けられていて一つ一つが短い文になっている箇条書きの方が理解しやすいね。」と話すグループが多かったため、私の中では意外な意見でしたがとても勉強になりました。
- シートの種類
- 単発のシート
- 質問文
- 世界の小学生の学校生活を知って、どんなことを思いましたか。
- 生成AI
- 学級全員の回答を要約(文章形式・箇条書き形式)
活用の効果
意見を整理することで、考えを深め、疑問を見つける
- 意見が整理されることで、価値観の違いに気付きやすい
要約結果を表示し意見が整理されたことで、多様な価値観に出会い、さらにみんなで考えたいという気持ちを強くしている様子が見られました。
ニュージーランドの学校では、先生の周りに座ってお話を聞くことが多いという内容に関して、「姿勢が悪くなるから、机と椅子がある日本のスタイルが一番だと思う。」といった意見に対し、「先生の近くで学べるって距離が近くて安心するな。」という意見も出てきました。自分とは違う意見に戸惑う児童もいましたが、「そういう考え方もあるのだね」とお互いの考えに触れ、受け止め合う場面もありました。- 自分の意見と要約結果を見比べて、考えを深められた
- 整理された意見を見て、新たな疑問が生まれ、自主的な調べ学習が進んだ
要約結果を見ながら「そこも日本と似ている・違う部分だよね。たしかに、たしかにそうだね。」と、もう一度内容を見返して自分の考えをまとめ直している児童もいました。さらに、「もっとこの点に関して調べてみたいです。今調べられる範囲で調べてみたら、世界の小学生に対するイメージがまた変わるかもしれません!」といった、探求心が強まる様子も見られました。まったく意見を言えず参加できなかった児童も、「僕も調べてみたい…。知りたい…。」と、要約結果を通じてみんなの意見を知ることで、自分も発問に対する考えを持ちたい!という意欲が芽生えてきていました。児童たちは、それぞれの国の小学生の生活スタイルや学習方法、放課後の過ごし方など、疑問に感じたことはとにかく自分たちで分担して調べ始めていました。
基本的に児童の意欲的な発言については、想定の範囲外であったとしても授業の流れを臨機応変に変更して展開していますが、ここまで盛り上がるとは思っていなかったというのが本音です。要約結果を見た後から、児童が「調べたい!」と夢中になったので、生成AIの活用から発展した場面であると感じました。生成AIによって時間を確保できたことで、調べる時間も増やすことができ、児童たちがさらに世界に目を向けるきっかけができたと感じました。その後の自主学習では、世界のことについて調べてくる児童が増加しました。また、要約結果の影響からか、「短い文章で分かりやすくまとめたい」という気持ちが垣間見えるまとめ方で自主学習に取り組んでいました。
児童が自ら価値観を広げる授業
正直なところ、児童の考えを教師が集約しようとするとき、気を付けていないと自分の主観が入ってしまいがちなことが気になっていました。今回の授業では教師自身も客観的に意見を受け止められ、児童の考えの方向性から道徳的価値が高まるような発問に修正しやすくなったと感じました。
当初は自己を見つめる発問として「世界と日本の学校生活を比べて、どんなことを考えますか。」という内容を予定していました。おそらくこれも自己を見つめる発問としてはいいと思います。しかし、児童は中心発問の時点ですでに比較検討ができていました。
児童は生成AIの要約結果を見ながら、それぞれの国に対して疑問点や大きな違い、そして日本にもこの取り組みを真似できたら…などと意見を交わしていました。その中で、ある児童が発言した「世界と日本では、気候や生活スタイルなどいろいろな違いがあるから、世界の小学生もそれぞれの国や文化に合ったやり方で学んでいるのだろうね。でも、私たちの学校の良いところや世界の学校の良いところを伝え合うことができたら、もっと楽しい学校に変えられるのではないかな、って私は思ったよ。」という意見から、学級の話し合いの方向性が見え、雰囲気ががらっと変わりました。世界との比較をしてマイナス面ばかり見るのではなく、よりよい在り方を考えられる雰囲気が話し合いの中にできたことがとても良かったです。
児童の意見を受けて、自己を見つめる発問は「日本の学校のよいところを紹介しよう。」に修正し、世界の小学生との違いや良さを踏まえながら自分たちの国の小学校の良さがよりよく伝わるためにはどうすればよいのだろうか、と投げかけました。
単に、「~がいいよ。」とメッセージを書くのではなく、「~だから、~なところがいいところだよ。」と要約結果から感じた、短い文でも伝えたいことが伝わる文章を書こうという意識が高まっている児童や、お互いの近くの友だちと内容を見せ合って世界の小学生に伝わるか確認し合っている児童もいました。
児童自身が価値観を広げ、とても意欲的に取り組んでいた授業になり、世界の学校と実際につながる機会をもたせてあげることができたらよかったな、と私自身も感じたほどでした。活用時のポイント
トラビは一つの手段であって目的ではないので、児童の意見を集約するにあたって、他のアプリも並行して活用し、児童が発言する機会や授業内容を視覚的に捉える部分を意識して授業をしました。板書も一つの手段であるし、意見を書いてもらえるのは児童も嬉しい、と感じるようなのでバランス良くいろいろなやり方を模索して一授業時間をより充実させています。
広がる活用シーン
自己を見つめる発問でトラビを活用することで、自分を振り返るだけでなく、友だちが日頃どのような場面でその道徳的価値を深めているのかを共有しやすくなるのではないかと思います。さまざまな意見をまとめて情報として得ることで、新たな気持ちの変化が得られるのではないかと考えました。